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福岡高等裁判所 昭和34年(ネ)586号 判決

控訴人 松本守

被控訴人 松崎秀雄

主文

原判決を取消す。

被控訴人、控訴人間の福岡地方裁判所八女支部昭和三四年(ヨ)第一五号仮処分申請事件について、同裁判所が昭和三四年五月七日なした仮処分決定(同年六月八日の職務執行者変更決定をふくむ)はこれを取消す。

被控訴人の本件仮処分命令の申請を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二項に限り仮りに執行することができる。

事実

控訴代理人は、一審昭和三四年(モ)第六四号事件について、主文第一項ないし第四項と同旨の判決、一審昭和三四年(モ)第六五号事件について、主文第一、二項及び第四項と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、被控訴代理人において、(一)被控訴人及び控訴人は共に八媛硫柱株式会社の代表取締役であつて、右代表取締役には共同代表の定めはない。(二)本件仮処分は民事訴訟法第七六〇条によるものである。(三)昭和三四年四月二〇日前記会社の臨時株主総会が招集せられ、右総会において被控訴人の取締役解任の決議がなされたが、右総会の招集は商法に基いて適法になされたものでない、と述べ、控訴代理人において、被控訴人主張の右(一)の事実は争わない。昭和三四年四月二〇日臨時株主総会が招集されて被控訴人の取締役解任の決議がなされたが、右総会の招集手続には違法の点はない。本件仮処分の係争権利関係は右臨時株主総会の決議により解任された被控訴人が依然として会社取締役の地位にあるかどうかにあるのであるから、控訴人に対し同会社の取締役、代表取締役の職務執行の停止を求める被控訴人の本件仮処分の請求は、右係争権利関係と直接関係のない処分を求めるものであつて、この点において失当である、と述べた外、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理由

被控訴人及び控訴人が共に八媛硫柱株式会社の代表取締役であつて、右代表取締役には共同代表の定めがないこと、昭和三四年四月二〇日の右会社の臨時株主総会において被控訴人の取締役解任の決議がなされたことは当事者間に争はない。

ところで被控訴人が本件仮処分申請の理由とするところは、右会社の臨時株主総会は控訴人のなした違法な招集手続によるものであるから、被控訴人は右総会においてなされた被控訴人の取締役解任決議の効力を争い、被控訴人が依然右会社の取締役、代表取締役の地位にあることを主張し、控訴人が代表取締役の地位を利用して会社に対し回復し得ない損害を与える危険があるので、民事訴訟法第七六〇条の規定により控訴人の取締役、代表取締役の職務執行の停止及びその代行者の選任の仮処分を求めるというのである。民事訴訟法第七六〇条の規定による仮の地位を定める仮処分は、仮処分権利者が争のある権利関係についてなされる本案判決の確定を待つていたのでは、著しい損害を生ずる恐れがあつて、今直ちに権利を行使しなければ完全な権利の実現ができないような場合に、その著しい損害を避けるために仮りに権利者たる地位を形成して一時仮りに権利を実行させるものである。しかるところ本件仮処分は、本件係争権利関係である被控訴人が前記会社の代表取締役の地位にあることの仮の権利の実現を内容とするものでなく、右地位とは直接関係のない控訴人の右会社取締役、代表取締役の職務執行を停止し第三者をしてこれに代行させることを内容とする仮処分を求めるものであるから、仮りに前記臨時株主総会が被控訴人主張のように控訴人のなした違法な招集手続によるものであつたとしても、被控訴人の本件仮処分の申請は、被控訴人の権利実現の目的に添わないものというべく、失当である。

以上の理由により被控訴人の本件仮処分の申請はその理由がないから、原審がなした仮処分決定はこれを取消すべきものとする。

よつて本件起訴命令による本案訴訟の提起のないことを理由とする控訴人の本件仮処分取消の申立について判断をするまでもなく、原判決は不当であつて、本件控訴は理由があるから、民事訴訟法第三八六条第九六条第八九条第七五六条の二を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小西信三 丹生義孝 岩永金次郎)

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